漢方薬は、数千年の年月をかけて、患者さんの症状に合った生薬の組み合わせ(処方)を生み出しました。それをもとに、日本の現状に合わせて発展させてきたのが、漢方薬です。小さくきざんだ生薬を煎じてのむ、伝統的な煎じ薬をはじめ、煎じ薬を乾燥させて加工したエキス剤など種類も豊富になりました。
よく「漢方」イコール「漢方薬」と思っている方がいますが、漢方薬は漢方医学という東洋医学の一部で、他に針灸、養生、按摩、気功・太極拳なども、漢方医学の治療法です。東洋医学を知ろうとするには。「黄帝内経、素問、霊枢、難經」こうていないけい、そもん、れいすう、なんぎょう「傷寒論」しようかんろん「金匱要略」きんきようりゃくなどを勉強しなければ理解できません。西洋医学とは考え方が違いますから、初めのうちはほとんど理解できません。それでも何回も読んでいるうちに諸先輩の教えにより、こう言う事なのだと気がつく、「陰陽論」いんようろん「五行説」ごぎょうせつ(五行相性相克説)「臓腑経絡」ぞうふけいらく「経穴」けいけつ東洋医学はこれらはみな、誰もがもともと持っている、病気と闘い、治す力(自然治癒力)を高め、からだを整えることを基本にしています。
そのため漢方は、病名で診断することだけでなく、患者さん一人ひとりの体質や病気の状態を見きわめながら、最適な漢方薬を使い分けていく、いわゆる「オーダーメイド」の治療だといえましょう。ですから、同じ病気でも患者さんの状態によってのむ薬が違ったり(同病異治)、ひとつの薬がいろいろな病気に応用される (異病同治)こともあります。一般に市販されている漢方薬は必ず「効能効果」が記載されていますが、代表的な葛根湯の効能は感冒、鼻かぜ、肩こり、頭痛、です。傷寒論に書かれている葛根湯の条文では太陽病脈証併治中第六・一条「太陽病項背強几几無汗悪風葛根湯主之」たいようびょうこうはいごうしゅしゅとしてあせなくおふうするはかっこんとうこれつをかさどる太陽病というのは太陽の経に邪を受けて発病していると言う意味(つまり病のはじめ)でうなじや背中が強張って「几几」と言うのは水鳥が飛び立つ時の首の状態に似ている、風邪を引くと肩をすくめたりしますね、その状態を言っている。汗なくて悪風(寒気)する者に葛根湯は効くのだと書いてあるのです。つまりジンワリ汗が出ている人には使ってはいけないと言う事です。汗が出ている人、その時は桂枝湯を使う事が多い。風邪を引いても人それぞれ症状が違います。体力の無い人は悪風もせずに身体の中に邪が入り込みます、その時は下痢をしたり、腹痛を起こし食欲がなくなったりします。葛根湯を用いる時は食欲は落ちません、すべて薬方が違います。邪が体表面にいる場合は、発汗して治します。葛根湯を飲んで布団の中でじっとしていれば発汗します、下着を何回も取り替えればスッキリ治ります。桂枝湯の時は、発汗作用が少ないのでおかゆ、又はおもゆをすすります。うっすらと発汗して邪を追い出して治ります。邪が内(体内)に入り込んだ時は温めたり、(瀉)下したりして治します。それぞれ、その人の体力や、そのときの状況により治し方が違います。一家族が風邪に順番にかかり病院に行き、お薬を処方されたが、よくよく見たらみんな同じ薬だったということは、漢方の場合はありません。傷寒(風邪)に例をとっていますが他の病気についても考え方は同じです。
「民間薬」とは、ゲンノショウコがお腹にいいとか、ドクダミが肌にいいなどと、身近な植物をある症状に使ってきたもので、普通は一種類の植物だけを使います。昔からの経験を言い伝えた、いわば生活の知恵で、お医者さんが処方薬として用いることはありません。また、最近ブームになっているハーブも、ヨーロッパなどの生活に古くから根づいている民間薬で、料理や健康増進のために利用されています。
これに対して漢方薬は、数千年にわたる効き目や安全性に関する長い経験に基づいて、特有の理論体系を築き上げ、その理論と患者さんの症状に応じて、いくつもの生薬を組み合わせて使うようになっています。そのため、一つの漢方薬でさまざまな症状を治し、複合的な効果を期待することができます。まさに、高齢社会を迎えて、いくつもの症状をかかえ、たくさんの薬をのまなければならないお年寄りに適した薬だといえましょう。
さらに漢方薬は、西洋医学では対処しにくい半健康状態から慢性疾患にいたるまで、広い症状に対処できることが、多くの先生方に認められるようになりました。 このように、広く使われ、科学的な研究も進むようになってきて、漢方薬が今の医療にとって大切な薬であることが、西洋医学からも認められてきています。現在、多くのお医者さんが日常の診療で漢方薬を使っており、大学病院や総合病院でも漢方外来をもうける施設が増えてきています。